大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

熊本地方裁判所 昭和51年(わ)73号 判決 1977年5月30日

本籍

熊本市池上町一、三〇〇番地

住居

熊本市南千反畑町一三番地の一一

会社役員

松村四郎

大正四年四月三〇日生

主文

被告人を懲役八月及び罰金一、二五〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、有限会社松竹会館ほか七社の代表取締役を兼務するかたわら、個人で営利を目的とした有価証券の売買を継続的に行い多額の所得を得ていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右有価証券の売買を架空人名義で行うなどして所得を秘匿し、昭和四七年分の総所得金額は、八、六八三万九、五〇四円であって、これに対する所得税額は五、一六〇万二、一〇〇円であるのにかかわらず、昭和四八年三月一五日、熊本市二の丸一番四号所在の所轄熊本西税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は八〇三万五、一四〇円で、これに対する所得税額は一三〇万四、七〇〇円である旨ことさら過少に金額を記載した虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税五、〇二九万七、四〇〇円を免れたものである。なお、所得の内容及び税額の計算は別紙のとおりである。

(証拠の標目)

一、証人山口勉、同内田正利、同高本義信、同小松英夫、同太田雅拡、同山本知義、同早野孝司、同小坂鉄士、同西田隆、同伊藤正一、同松村スミヱの当公判廷における各供述

一、証人尾崎斉に対する当裁判所の尋問調書

一、松村スミヱ(七通)、塚口純の検察官に対する各供述調書

一、福田千亀、塚口純、松村スミヱ(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、大蔵事務官作成の脱税額計算書

一、大蔵事務官作成の調査事績書(記録第一三一号ないし第一五七号、第一七四号、第一七五号)

一、野村証券株式会社熊本支店総務課長山本知義(記録第一一一号ないし第一一四号)、同検査部次長塚口純(記録第一一五号)、新日本証券株式会社熊本支店総務課長前川正(記録第一一六号ないし第一二二号、第一二九号)、大和証券株式会社熊本支店管理課長関谷孝夫(第一二三号、第一二四号)、吉永啓子(記録第一二七号)作成の各上申書

一、資産状況表等綴写(証明書第五号)

一、発送止リスト写(証明書第六号)

一、印鑑票写(証明書第七号)

一、仮名台帳写(証明書第八号)

一、顧客勘定元帳写(証明書第一〇号、第一一号)

一、保護預り有価証券明細簿写(証明書第一二号)

一、保護預り口座設定申込書写(証明書第一三号)

一、報告書止置き分と題するノート写(証明書第二〇号)

一、印鑑票写・顧客勘定元帳写等(証明書第三七号)

一、普通預金元帳写(証明書第四一号ないし第四三号)

一、大蔵事務官作成の検査てん末書(五通)

一、押収してある有価証券売買報告書綴一綴(昭和五一年押第一一五号の一)、雑書類綴一綴(同押号の二)、黒クロス張帳簿一冊(同押号の三)、顧客勘定元帳等綴一綴(同押号の四)、売買報告書・計算書綴一綴(同押号の五)、残高照合回答書綴一綴(同押号の六)、信用取引口座設定約諾書二枚(同押号の七、八)、株式仮名届綴一綴(同押号の九)、報告書留置ノート一冊(同押号の一〇)、報告書止置き分ノート一冊(同押号の一一)、保証書(同押号の一二)、諸報告書郵送取扱指定依頼書綴一綴(同押号の一三)、売買報告書・受領書三枚(同押号の一四)、保証書三枚(同押号の一五)、取引メモ一綴(同押号の一六)、松村四郎氏関係書類綴一綴(同押号の一七)、大蔵省検査提出書類控一綴(同押号の一八)、支店長引継書類一綴(同押号の一九)、売買報告書・受領書綴三綴(同押号の二〇ないし二二)、無標題のノート一冊(同押号の二三)、所得税確定申告書四綴(同押号の二四ないし二七)、念書二二枚(同押号の二八)、届出書一三枚(同押号の二九)

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の検察官に対する供述調書(六通)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(五通)

なお、検察官は、本件犯行は被告人が妻スミヱと共謀のうえ実行したものであると主張する。

よって検討したところ、先ず、昭和四七年における野村証券、新日本証券、大和証券との間の有価証券取引について、その個別的・具体的な取引行為自体は被告人の妻スミヱがこれを担当したものであるが、これらは、いずれも被告人の包括的な委任に基づくものであって、その取引による所得は総べて被告人に帰属したことが明らかである。

しかしながら、この事実をもって直ちに本件犯行が妻スミヱと共謀のうえ敢行されたものであると言えないことは明白である。そして、被告人は前示犯罪事実として認定したとおり、熊本西税務署長に対し、昭和四七年の被告人の所得金額をことさら過少に記載した内容虚偽の所得税確定申告書を提出したのであるが、これを提出するにつき、妻スミヱとその意思を相通じてこれを実行したものであるとは認められず、その他本件犯行を実行するにつき妻スミヱと共謀したとの事実を認めるに足りる証拠はない。

よって、検察官主張の右共謀の点はこれを排斥した次第である。

(法令の適用)

判示行為、刑の併科及び罰金刑の多額につき

所得税法二三八条一項、二項

労役場留置につき

刑法一八条

懲役刑の執行猶予につき

刑法二五条一項

訴訟費用の負担につき

刑事訴訟法一八一条一項本文

(検察官千葉倬男出席)

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 石田實秀)

脱税額計算書

<省略>

備考

1. 税額の計算内容は次表のとおり。

2. 所得金額の計算内容は、別紙修正損益計算書のとおり。

犯則税額の計算内訳

47.1.1~47.12.31

<省略>

修正損益計算書

自昭和47年1月1日

至昭和47年12月31日

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例